デザインについて、参考になる本がありました。
最近、話題?の「デザイン思考」について、要点を解説している本です。
→ デザインのスキルを、仕事で活かすための方法が提案されています。
デザイン思考(でざいんしこう、英: Design thinking)とは、デザイナーがデザインを行う過程で用いる特有の認知的活動を指す言葉である。
リチャード・ブキャナンによる1992年の論文「デザイン思考における厄介な問題(Wicked Problems in Design Thinking)」では、デザイン思考とはデザインを通じて人間の困難な課題を扱うものだという見解が打ち出された。
解決志向の思考
デザイン思考は実践的かつ創造的な問題解決もしくは解決の創造についての形式的方法であり、将来に得られる結果をより良くすることを目的としている。この点においてソリューション・ベースドもしくは解決志向の思考方法の一つと言うことができ、特定の問題を解決することではなく、目標(より良い将来の状況)を起点に据えている。問題に関する現在と未来の条件とパラメータを考慮することで、代替となる複数の解決方法が同時に探求されるのである。ナイジェル・クロスによれば、この種の思考法は人工的な建築物や環境において最も頻繁に生じるという。
最近「デザイン思考」(Design Thinking)という言葉をよく聞きますが、関連する本は結構分厚くて、読むのが面倒でした。
その点、この「超図解「デザイン思考」でゼロから1をつくり出す」は、要点がまとまっており、読みやすかったです!
「デザイン思考」という考え方について情報を収集する場合、本書を足がかりにし、必要に応じて、巻末で紹介されている参考文献も当たってみれば効率が良いかも?
●目次
超図解「デザイン思考」でゼロから1をつくり出す
Design thinking 0 「ゼロ」から「1」の創造を求められる時代
0-1 「前例踏襲」では許されない時代が来た
0-2 「競争のない市場」へと進路を取れ
0-3 「ゼロ」から「1」を創造する方法とは
コラム 2種類の「イノべーション」
Design thinking 1 デザイン思考って何だろう
1-1 そもそも「デザイン思考」とは何なのか
1-2 デザイン思考はいつ生まれたのか
1-3 デザイン思考はなぜ、イノべーションを生み出せるのか
1-4 どのような企業がデザイン思考を実践しているのかの
1-5 社会貢献とビジネスの融合で世界を動かす
1-6 企業も大学もデザイン思考に注目している
1-7 デザイン思考の基本的な手順とは
1-8 デザイン思考は決して難しくない
コラム デザイン思考を扱った本
Design thinking 2 現状を深く「観察」して共感する
2-1 顧客にとっての本当の価値とは何か
2-2 「顧客の観察」からニーズや価値を発見する
2-3 「量」よりも「質」に注目し、調査を行う
2-4 「極端な顧客」にアプローチせよ
2-5 初心者の立場で調査対象に接する
2-6 デザイン思考が「共感」を重視する理由
コラム 行動観察と共感
Design thinking 3 集束思考で「正しい問題」を見つけ出す
3-1 「ナマの情報」を統合し、仮説を導き出す
3-2 集束思考を効率的に実行する方法とは
3-3 ディズニーから生まれた「ストーリー・ボード法」
3-4 IDEOが開発した「共感マップ」
3-5 フレーミングで問題を別の角度から見る
3-6 問題の再定義で解決の糸口が見つかる
コラム 「なぜ?」を見つけることが大切なのだ
Design thinking 4 発散思考で「解決策」を大量に創造する
4-1 「解決策」は1つではない
4-2 解決のアイデア、発想のコツは「組み合わせ」!
4-3 解決策が大量に生まれるブレイン・ストーミング
4-4 まず「現場」を見に行こう!
4-5 「4つのアクション」でイノべーションを意図的に巻き起こす
4-6 「素晴らしい経験」をデザインし、顧客に提供する
4-7 「マインドマップ」で頭の中を「見える化」する
4-8 アイデアは考え続けた人に訪れる
コラム いったん問題から離れるとアイデアが訪れる
Design thinking 5 失敗を前提に「アウトプット」を繰り返す
5-1 「とにかくトライする」態度が、アイデア実現のカギ
5-2 プロトタイプとは何なのか
5-3 いいプロトタイプを「報告書」で考えてみる
5-4 フィードバックでプロダクトの「強み」を際立たせる
5-5 ポジティブ思考で失敗しながら前進する
5-6 イノベーションを市場に導入する前に
コラム 量をこなすことの大切さ
Design thinking 6 デザイン思考の組織への導入ポイント
6-1 大組織でイノベーションが進展しない理由
6-2 イノベーティブな組織やチームはこうして作る
6-3 デザイン思考を浸透させるためのチーム作り
6-4 「創造力に対する自信」があれば、道は開ける!
参考文献
索引
●著者
中野 明(なかの あきら)
ノンフィクション作家。1962年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。同志社大学非常勤講師。「情報通信」「経済経営」「歴史民俗」の3分野をテーマに執筆活動を展開。人文科学・自然科学を問わず、難解複雑な事象を図解化し明快に説く手腕には定評がある。
著書は『超図解 勇気の心理学 アルフレッド・アドラーが1時間でわかる本』『超図解 7つの習慣 基本と活用法が1時間でわかる本』(学研プラス)、『今日から即使えるドラッカーのマネジメント思考』『今日から即使えるコトラーのマーケティング戦略54』(朝日新聞出版)ほか多数。
pcatwork - Akira Nakano's Web Site
●制作協力
●装丁/デジカル(萩原弦一郎・藤塚直子)
●イラスト/ケン・サトー
●本文デザイン/アスラン編集スタジオ
●編集協力/アスラン編集スタジオ
●校正/情報出版
てなかんじの本でした。
●デザインスプリント
Googleで実践されている開発手法の一つに、「デザインスプリント」というものがあります。
デザインスプリントは、デザイン思考をベースにして、IT企業向けにカスタマイズした手法だそうです。
デザイン思考について理解を深めたら、自分の仕事のやり方を改善するために、参考になる考え方が得られるのではないでしょうか?
●引用
書籍『超図解「デザイン思考」でゼロから1をつくり出す』で、面白いと思った部分をちょっとメモ。\(備忘録)/
(p.40)
デザイン思考はなぜ、イノベーションを生み出せるのか
デザイン思考は、人にとっての有用性に注目することで、技術的側面や経済的側面に重点を置く従来の企業活動に欠けていたものを補います。
イノベーションに不可欠な3要素
(1) 人間(有用性)
(2) 技術(技術的実現性)
(3) ビジネス(経済的実現性/持続可能性)
従来の企業活動では、3要素に対するアプローチに偏りがありました。
一方、デザイン思考の中心には常に人間があります。
閉塞感を打ち破る武器として
従来のマネジメントでは、「それは実現可能か?」という技術的側面、「それは儲かるのか?」という経済的側面により多くの注意を払ってきました。
しかし、それがいまや壁にぶち当たっている現在、まず人が持つ隠されたニーズを探り当てることで、人にとって真の有用性を考え、その上で技術的に実現可能であり、経済的にも見合うプロダクトを提供すればどうか――。
いわば、人を中心にまず有用性を考えて、次に技術的・経済的な実現性を探っていくという新たなアプローチが、デザイン思考の本質です。
(p.82)
初心者の立場で調査対象に接する
観察者は“初心者”として課題に取り組みます。
その上で、“旅人”の視点で調査対象に接し、「なぜ」という疑問を繰り返し投げかけます。
素直に「なぜ」を問いかける
実際の観察では、個人インタビューやグループ・インタビュー、さらに調査対象と活動をともにする状況没入などを通じて、顧客の行動を観察して理解します。
その際に観察者は、調査テーマに対して自分は初心者だと心得ることが重要です。
初心者はいつも、あたかも見知らぬ土地を旅する旅人のように部外者の視点で状況を観察します。そうすれば、いままでは当たり前だった事柄が、突然新鮮なものとして眼前に現れるはずです。トム・ケリーはこれを「ヴュジャデ」と呼びます。
「デジャヴュ」とは実際に経験していないものを以前に見たことがあるような感覚です。これに対して、前に何度も見ているものを、いま初めて見ているような感覚、これがヴュジャデです。
ヴュジャデの目で状況を見ると、「なぜそのようにするのだろう?」という素朴な疑問が湧いてくるに違いありません。
そうしたら、「なぜ」で始まる質問を調査対象に投げかけましょう。しかも1回でなく5回繰り返して投げかけるのがポイントです。これを「5回のなぜ」と呼びます。
意外かもしれませんが、この5回のなぜは、トヨタ生産方式の一環として開発された、生産システムの改善を促すための手法です。「カンバン方式」を開発した大野耐一が提唱し、世間で知られるようになりました。
(p.92)
「ナマの情報」を統合し、仮説を導き出す
集めた情報を統合して、そこから仮説を導き出すことが欠かせません。
この作業には定番となるテクニックがあります。
発散思考と集束思考を繰り返す
一般に創造性開発では、私たちが何かアイデアを発想する際、発散思考と集束思考を用いると考えます。発散思考とは、テーマに関連する情報を批判することなしに列挙する態度を言います。
もっとも、仕入れた情報をバラバラの状態のまま所有していても意味がありません。そこで重要になるのが集束思考です。ここでは収集したナマ情報を組み立てて、新たな仮説に「変換」することを目指します。
(p.94)
仮説の創造、洞察の獲得
ところで、集束思考のやり方には、大きく演繹法と帰納法があります。演繹とは特定の法則を当てはめて観察した事象を説明する態度です。対して帰納とは、観察した事実から特定のパターンあるいは法則を見つけ出す態度です。
一般に私たちは、帰納的に観察した情報に、既知の法則や知識を演繹的に当てはめて推論します。ところが、観察した事実から帰納的に得た結果が、既知の法則や知識では説明できない場合があります。
この既存の知識や法則と、観察した事実の対立や矛盾こそが、集束思考で見つけ出すべき確信です。この対立や矛盾の理由を考えることが、仮説の創造であり、洞察(インサイト)の獲得にほかなりません。
「演繹法」と「帰納法」という用語について、意味を押さえておきます。
演繹(えんえき、英: deduction)は、一般的・普遍的な前提から、より個別的・特殊的な結論を得る論理的推論の方法である。
演繹の代表例として三段論法がある。
「人は必ず死ぬ」という大前提、「ソクラテスは人である」という小前提から「ソクラテスは必ず死ぬ」という結論を導き出す。
この例のように二つの前提から結論を導き出す演繹を三段論法という。
演繹においては前提が真であれば、結論も真となる。
帰納(きのう、英: Induction、希: επαγωγή(エパゴーゲー))とは、個別的・特殊的な事例から一般的・普遍的な規則・法則を見出そうとする論理的推論の方法のこと。
演繹においては前提が真であれば結論も必然的に真であるが、帰納においては前提が真であるからといって結論が真であることは保証されない。
演繹で用いられている例と帰納を対比させるとこうなる。
「人であるソクラテスは死んだ。人であるプラトンは死んだ。人であるアリストテレスは死んだ。したがって人は全て死ぬ」。
つまり、帰納は一般化に基づく。
via 問題解決手法>演繹法と帰納法
via 法学の方が『理系』で、工学の方が『文系』という話 ~本当の理系と本当の文系について~ - 雪見、月見、花見。
(p.100)
ディズニーから生まれた「ストーリー・ボード法」
ストーリー・ボードとは、物語のストーリーに沿ったイラストやイメージを壁に貼り出したものです。情報の整理や仮説の設定に大いに利用できます。
情報を列挙するとパターンが浮かび上がる
KJ法と並ぶ集束思考の技法に「ストーリー・ボード法」があります。
そもそもストーリー・ボード法とは、物語のストーリーに沿ったイラストやイメージを壁に貼り出したものを指します。効率的な映画製作を目指して、ウォルト・ディズニーらが1930年頃に開発した手法です。
その後、ディズニーでは、このストーリー・ボードを映画製作以外にも利用することになります。ここからストーリー・ボードを用いた次のような発想法が生まれました。
まずテーマを明らかにし、テーマを構成する主たるカテゴリーを列挙して貼り出します。そして、カテゴリーごとにアイデアを発想して貼り出します。
そして、貼り出されたカードをもとにアイデアを発展させたり、あるいはカードの少ないカテゴリーのアイデアを充実させます。
たとえば、スーパーでのショッピングを考えた場合、「入店」「商品チェック」「商品選択」「支払い」「荷詰め」「出店」という大きな流れがあります。この流れをホワイトボードに書き込み、個々のカテゴリーで顧客が取った行動をポストイットに書き込んで貼り付けていきます。
そして情報を列挙しながら、どのようなパターンが浮かび上がるのか、あるいは意外な点や不思議な点はないかを考えます。
問題解決の手がかりが見つかる
あるスーパーの幹部は、よりよい顧客経験のヒントを得るためにストーリー・ボードを利用しました。その店舗には東西2箇所の出入口があったのですが、そこに意外なパターンを見つけ出しました。
夕刻以降になると、東の出入口から入店して西の出入口から店を出ていく客の数が予想以上に多かったのです。幹部はこれを帰宅途中の買い物であると考え、東から西の経路を「帰り道」と定義しました。同店では、この定義に基づいて店内のレイアウトを見直すとともに、調理済み食材を増やすことで売上向上に成功しました。
これはストーリー・ボード法を用いた成功例の1つです。
(参考)
(p.104)
IDEOが開発した「共感マップ」
共感マップも集束思考のためのツールです。
IDEOが開発した手法で、現場で観察した情報を取りまとめるのに優れた技法です。
共感マップの作り方
共感マップは、4マスのマトリックスからなります。
(1) 人々が言っていること(SAY)
(2) 人々が行っていること(DO)
(3) 人々が考えていると思われること(THINK)
(4) 人々が感じていると思われること(FEEL)
ホワイトボードなどにこのマトリックスを描いたら、現場で観察してきたことの中から、「人々が言っていること」「人々が行っていること」をポストイットに書き込んで、マトリックスの該当するマスに貼り付けていきます。
その際、ポストイットの色を使い分けて、「ポジティブな内容」「ネガティブな内容」「ポジティブでもネガティブでもない内容」が一目でわかるようにします。
そうして左側のマスを埋めたら、次に右側のマスに移ります。ここでは人々が考えたり感じたりしていると思われることを列挙していきます。つまり左側は事実、右側は推測に関する情報です。
共感マップから仮説を手にする
情報を列挙できたら共感マップ全体を眺めます。そして次の点について問います。
・新鮮な点は
・意外に思う点は
・4つのエリア間に矛盾やギャップはないか
・予期せぬパターンはないか
これらについて検討しながら、隠れたニーズ、顧客が本当に価値あると考えているものが存在しないかを考えます。中でも、言っていることと行っていることの矛盾、思っていることや感じていることと実際に行っていることのギャップには、隠されたニーズが存在することが多々あります。
こうした仮説や洞察としてのニーズは、目立つ色のポストイットに記入して、共感マップの横に貼り付けていきます。
(参考)
(p.152)
「とにかくトライする」態度が、アイデア実現のカギ
アイデアを実行すると決めたらとにかく失敗を恐れずに「始める」ことが大切です。
これがデザイン思考の大きな特徴です。
計画以前に必要なラピッド・プロトタイピング
エジソンはこう言いました。
「私は失敗したことがない――」
さすが発明の天才、言うことが違いますね。しかし、この言葉には続きがあります。
「1万通りのうまくいかない方法を発見しただけだ」
なるほど。つまりエジソンは失敗に失敗を重ねたわけです。しかしエジソンにとって、それらは失敗ではありませんでした。「うまくいかない方法の発見」に過ぎなかったということです。そして、うまくいかない方法をくぐり抜け、ようやく到達したのが発明という成功だったわけです。
先のエジソンの言葉には、デザイン思考にとってきわめて深い教訓が秘められています。
デザイン思考では「失敗しながら前進する」がモットーだからです。
(p.154)
「手軽」「低コスト」「短時間」が肝心!
プロトタイプとは「試作品」のことです。最低限の材料だけで少数を実験的に作ります。これをラピッドすなわち手早く作るからラピッド・プロトタイピングです。
その本質とは、チームのメンバーが意見を出し合える具体的な土台を手早く作れ、ということです。そして、目に見える、手に持てる、あるいは擬似体験できる試作品をチームで評価して、さらに改良を重ねて新たな試作品を作る――。
これを繰り返し、頭の中にあったアイデアをより具体的な製品へと洗練させていきます。したがって、「手軽」「低コスト」「短時間」でプロトタイプを作る。これがデザイン思考によるアウトプットの最重要ポイントになります。
(p.156)
プロトタイプとは何なのか
プロトタイプは立体物に限りません。
ラフスケッチやマンガ、パフォーマンス、ビデオ、仕様書、3Dなど、多様な種類があります。
「プロトタイプ=立体物」ではない
プロトタイプは必ずしも立体物の形態を取る必要はありません。鉛筆でラフスケッチしたものもプロトタイプの1つです。あるいは、医療器具の使い始めから使い終わりまでの「経験」をマンガで表現したものもそうです。
使い始めから使い終わりまでを身振り手振りでパフォーマンスしたものだってプロトタイプになります。もちろん、その様子を録画したビデオもプロトタイプと言っていいでしょう。
(p.158)
失敗する心構えが必要!
ラピッド・プロトタイピングの重要性を強調するIDEOのケリー兄弟は言います。
最終的に“天才的なひらめき”が訪れるのは、ほかの人よりも成功率が高いからではない。単に、挑戦する回数が多いだけなのだ。つまり、ほかの人よりもゴールに向かってシュートを打つ回数が多いわけだ。
トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー
プロトタイプはゴールに向かって打つシュートです。そしてエジソンは、このゴールに向かって打つシュートの回数が、一般の人よりもはるかに多かったわけです。
(p.161)
完成品への作成過程でも、一気にゴールを目指すのではなく、プロトタイプの洗練を繰り返すのが得策です。
本を作る場合も、目次を作ってから、徐々に文章を書き足せばOKと。
(本を書いてみたいかもw)
(p.164)
フィードバックでプロダクトの「強み」を際立たせる
プロダクトが持つ強みをさらに強化するには、プロトタイプの改善点を洗い出し、次のプロトタイプ作成にフィードバックするのが最善の方法です。
弱みによって何かを行うことはできない
経営者ピーター・ドラッカーは「弱み」ではなく「強み」に集中することの大切さを繰り返し述べました。
とかく私たちは「弱点」に注目しがちです。しかし弱点を解消して平均的な能力を手に入れても、達成できるのは平均的なことです。そもそも弱点を解消しようとするならば、それが強みをより強化することに資する必要があります。そしてドラッカーは、この強みを強化する唯一の方法がフィードバックだと述べました。どういうことか――。
私たちは何事かを成す場合、目標を定めて実行に移します。そして結果を出します。この結果と、目標時に設定した期待とを比較します。そこには満足できること、あるいは不満足なことがあるでしょう。これを次の目標にフィードバックして、上手にできることをさらに上手にできるようにする、つまり強みをさらに強化するようにします。だから、ドラッカーはフィードバックが強みを強化する唯一の方法だと喝破したわけです。
同様のことがプロトタイプにも言えます。プロトタイプとは、レベルはともかく最終目標を具体化したものです。しかし一足飛びに最終目標を完全に具体化するのは困難です。ですから必ず改善点が存在します。この改善点を洗い出して次のプロトタイプにフィードバックします。この繰り返しでプロトタイプは最終形のプロダクトに姿を変えます。
(用語)
フィードバック(feedback)とは、「帰還」を意味し、ある系の出力(結果)を入力(原因)側に戻す操作のこと。
なんらかのシステムの出力を入力に戻す機構
(p.168)
ポジティブ思考で失敗しながら前進する
試作品を改善しながら完成を目指す上で大切なのがポジティブ思考です。
失敗してもOK。楽観的な態度で前進していきましょう。
失敗を気にせず、まず始めよう。
何かを達成するのに最大の敵とは何か――。失敗に対する恐れ、ためらいなどが、最も大きなハードル、最大の敵ではないでしょうか。
特に私たちは、何か大きなことを目標にしたとき、行動を躊躇しがちです。「まだ準備ができていない」「期が熟していない」「もう少し練習が必要だ」というように――。
しかしながら、何ごともまず始めなければ始まりません。
とにかく実際に着手して、失敗しながら前進する。軌道修正はあとからだって可能だと考える。この態度こぞがラピッド・プロトタイピングの真骨頂であり、デザイン思考の核となる態度の1つと言えます。
「修正はあとから可能。実験だと思って、さあ、始めよう」
いかがでしょう。このように考えたら、肩の荷が下りると思いませんか。実際、すでに見てきたように一足飛びに完成品を目指す必要はありません。プロトタイプを作成して、改善点を次のプロトタイプにフィードバックする。これを繰り返してゴールを目指すのがデザイン思考の極意です。
まさに「失敗しながら前進する」「作りながら考える」態度です。そしてこの態度の根底にはポジティブ思考があると言っていいでしょう。
(p.172)
イノベーションを市場に導入する前に
イノベーションを実現するには不屈の精神を持つハードル選手のようにいくつもの困難を乗り越えなければなりません。
早く小さく始め、早期に成功を手に入れる
イノベーション論の大家クレイトン・クリステンセンは、「早く始める」「小さく始める」「早期の成功を収める」ことの重要性を説きます。
早く始めるとあ、本業の儲けがまだ大きいときにイノベーション・プロジェクトを始めよということです。また、最初からプロジェクトを大規模に始めるのではなく、出だしは小規模に実行することです。そして早期の成功を達成することでプロジェクトに勢いをつけることが大切だ、とクリステンセンは述べています。
一般に市場に出すプロダクトは完璧を目指すものです。しかし現在のタブレットやスマホのアプリのように、早期にリリースして小さな成功を達成し、その後、怒涛の勢いで質的向上を目指す手法が台頭してきています。
もちろん粗悪品を市場に出せば顧客から即座にそっぽを向かれるでしょう。ですから実用的に最小限の製品を完成させて、早期に市場に送り出すことです。これを「実用最小限のプロダクト」と呼びます。この態度こそがデザイン思考における製品の市場投入にほかなりません。
(p.174)
深い溝を飛び越える努力をせよ
また、経営コンサルタントのジェフリー・ムーアは、市場に導入したイノベーションの見かけの成功に注意せよと言います。そもそもイノベーションがイノベーターやアーリー・アダプターに浸透すると大きな話題になります。しかしその製品をマジョリティに売り込むには、製品を誰でも使えるようにしなければなりません。
このアーリー・アダプターとマジョリティの間にあるキャズム(溝)を飛び越えるには、製品の洗練が欠かせません。つまり実用最小限の製品を投入したら、継続して顧客経験の向上をはかり、マジョリティの心をつかめということです。
それからもう1つ、ピーター・ドラッカーからのアドバイスです。ドラッカーは、イノベーションを円滑に市場に導入するためには、組織の既存の方針にとらわれない、イノベーションを推進するための独立した組織が重要であると説きました。
(p.176)
Column:量をこなすことの大切さ
トム&デイヴィッド・ケリーの著作『クリエイティブ・マインドセット』では、陶芸クラスに関する興味深いエピソードを紹介しています。
ある陶芸クラスではグループを2つに分け、一方のグループには作品の質、もう一方のグループには作品の量で成績をつけると伝えました。この宣告を受けたあと、2つのグループはともに制作に励みました。しかし、両グループの制作に対するアプローチは対照的だったといいます。
質が成績の基準になるグループでは、皆が一様に、最高の出来になるような作品をじっくりと制作しました。これに対して量が成績の基準になるグループは、とにかく数を確保するために次々と新しい作品を完成させていきます。
では、最終的にどちらのグループの作品が質的に優れていたでしょうか。卒業時の優秀な作品は、ほとんどが量で成績をつけると告げられたグループのものだったそうです。
このエピソードから得られる教訓とは、一発で最高の質を目指すというアプローチは失敗に終わりやすく、質を求めるならば駄作でもよいから大量に作るアプローチが欠かせない、ということです。量はやがて質に変わる。このように考えたいですね。
クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法
- 作者: デイヴィッド・ケリー,トム・ケリー,千葉敏生
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2014/06/20
- メディア: 単行本
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(p.190)
「創造力に対する自信」があれば、道は開ける!
自分には世界を変える力がある――。
この創造力に対する自信を胸に秘め、イノベーションを起こそうではありませんか。
重要なのは、自ら変化を作り出すこと
以前は輝いていた企業に元気がないように思いませんか。その原因を大企業病に求める人もいるでしょう。
では大企業病とは何か。一言で言うならば、イノベーションのジレンマによる全社的なリスク回避思考ではないでしょうか。
万物は流転します。ために時代は変化します。これはギリシャ時代の哲学者ヘラクレイトスが指摘した真理です。
この真理を前提とするならば、昔うまくやれていた手法も、やがて時代にそぐわなくなるでしょう。
したがって人や組織は、時代の変化に応じて思考法や経営手法を変えなければなりません。
しかし過去を捨てるのは難しいものです。これは心理学者であり行動経済学者でもあるダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが提唱した「プロスペクト理論」を用いると容易に説明できます。
プロスペクト理論では、人は利得よりも損失を回避する傾向が1.5~2.5倍大きいことを明らかにしました。つまり私たち人間は生来より、損失を回避する、すなわち失敗を極力避けるようにプログラミングされているわけです。
しかし、失敗を恐れてすくんでいては時代の変化に取り残されること必至です。ドラッカーは、変化を恐れずに、自ら変化をつくり出す、そんな人物になれ、と私たちを鼓舞します。ドラッカーはそんな人物のことを「チェンジ・リーダー」と呼びました。
まずは自分から一歩を踏み出そう
自分には世界を変える力がある――。
ケリー兄弟はこれを「創造力に対する自信」と称しました。
私たちには現状を変える力があります。それを信じて一歩を踏み出しましょう。その際に強力な武器になるのがデザイン思考です。
この本には、参考になる話がたくさんありました。
→言われてみたら、いちいちもっともなんだけど、やっていないことが結構多い?
今後サービスやアプリを作るときには、「デザイン思考」の考え方、やり方を参考にしてみたいと思います。
特に「ラピッド・プロトタイピング」で、たくさんの試作品を練り上げていく手法は、実践しないとダメだと痛感しました。(><)